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家族で支えあう終活:入院した母をきっかけに始める「無理なく働き続ける」介護の工夫

はじめに

母親が入院するという出来事は、家族にとって大きな転機になりやすいものです。「まだ先の話だろう」と思っていた介護の問題が、一気に現実味を帯びてきます。
しかし、仕事や家事をこなしながら介護を担うのは想像以上に大変です。
そこで今回は、70代の母の入院をきっかけに介護を考え始めた佐藤裕美さん(仮名・40代)の体験談をご紹介します。
家族で協力しながら無理なく働き続けるために取り組んだことや、専門家の視点から見たアドバイスも交えてお話しします。

母の入院がきっかけ:姉妹で「負担を分かち合う」大切さを痛感

佐藤さんのお母さま(陽子さん・78歳)は、ある日、持病の悪化で急遽入院しました。命に別状はないものの、医師からは「退院まで1か月ほどかかる見込み」と言われました。
佐藤さんはフルタイム勤務、姉と妹もそれぞれパートやフリーランスなどの形で働いています。

「すぐに会社を休むわけにもいかないけれど、付き添いは必要になるかもしれない…」と悩んだ末、姉妹3人でローテーションを組み、無理なく対応する仕組みを考えたそうです。

ローテーションで無理をしない

  • 平日昼間:パート勤務の妹が調整しやすい曜日を選び、病室へ顔を出す
  • 平日夜や土日:フルタイム勤務の佐藤さんと姉が交互に付き添う

こうすることで、誰か一人に極端に負担が集中しないようにしました。
姉妹同士で「ここは任せるね」「今日は私が行くよ」と言い合えるため、心身の余裕が保ちやすかったそうです。

専門家の分析

在宅介護や病院への付き添いでは、ローテーションの導入が非常に効果的です。家族全員が何らかの形で仕事や家事を抱えている場合、シフト制のように役割を分担するだけで、疲弊度が一気に軽減します。
結果として、家族間で摩擦が少なくなり、精神的にも安定したサポートを続けやすくなるといわれています。

情報共有の工夫:ノートを常設して「伝え漏れ」を防ぐ

付き添いを交代しながら行う場合、最も大変なのが「前の人がどんな話を医師から聞いたか」「何か特別な指示や変化があったか」を把握することです。
佐藤さんたちは、病室にノートを一冊置きっぱなしにして、付き添いする人が看護師や医師から聞いた話、患者である母の様子の変化などをできるだけ詳しく書き込むようにしました。

ノート記入の内容

  • 医師の説明や注意点:薬の飲み方、退院後の予定、運動や食事の制限など
  • 看護師とのやり取り:必要な書類、検査やリハビリのスケジュール
  • その日のお母さまの状態:表情、眠りの深さ、食欲、会話の内容
  • 付き添い中の気付き:些細なことでも書いておくことで、後から見返す際に役立つ

「最初は面倒かなと思ったのですが、いざやってみると次の付き添いをする人が何も聞き直さずにスムーズに対応できるようになり、結果的に楽になりました」と佐藤さんは振り返っています。

専門家の分析

このような共有ノートは、在宅介護や入院付き添いの現場でよく導入される方法です。家族内だけでなく、必要に応じて病院のスタッフにも一部内容を確認してもらうと、情報伝達の齟齬を一層少なくできます。実際、ケアマネジャーやソーシャルワーカーからも「家族間ノートの作成は介護の質を上げる」といった意見が多く聞かれます。

エンディングノートの常設:「終活」は早めが安心

入院後、お母さまがまだ動けるうちに、佐藤さんたちは病室にエンディングノートを置きました。急な容体の変化にも備えて、緊急時の連絡先や希望する治療方針、延命措置の有無などを明確にしておくためです。

「最初は母に『まだ早いんじゃない?』と怒られるかと思っていましたが、本人も『万が一のとき』を強く意識するいい機会になったみたいです。姉妹みんなが納得できる形で方針を共有できたのは大きかったです」と佐藤さんは話します。

エンディングノートの項目

  • 緊急連絡先:家族の電話番号、主治医やかかりつけの病院など
  • 治療に関する希望:延命措置の範囲、リハビリの必要性
  • 金融資産や保険の整理:通帳の所在、保険証券の場所など
  • 最期の迎え方:お墓や葬儀の希望など

専門家の分析

「終活」の一貫としてのエンディングノートは、いざというとき慌てずに済む点で非常に効果的です。特に、70代以上の方にとっては入院を機に書き始めるケースが増えています。
書き残すことで、当人が意思をしっかり伝えられ、家族も負担が減るというメリットがあります。

介護費用と働き方の両立:「諦めない」ために使えるサービス

介護や入院付き添いには、経済的な負担も伴います。入院している間は健康保険が適用される場合がほとんどですが、それでも1日あたりの自己負担が数千円から1万円程度になるケースも珍しくありません。
高額療養費制度を利用すれば負担はある程度抑えられますが、食事代や差額ベッド代など保険外費用がかさむと、家族にとって大きな出費になります。

佐藤さんの場合は、母が要介護認定を受けていたため、介護保険サービスを利用できる準備も同時に進めていました。
退院後は自宅リハビリを見据えて、デイサービスや訪問看護などを視野に入れていたそうです。

「正直、介護保険を申請するのは気が重かったのですが、『長期的に働き続けたいなら早めの準備が大事』とケアマネジャーさんに言われたのが大きかったですね。
もし家族だけで抱え込んでいたら、姉妹全員が仕事を続けるのは難しかったと思います」と佐藤さんは話しています。

まとめ:家族だからこそ「無理なく続ける」仕組みづくりを

母の入院は、介護と仕事を両立するための課題を一気に明確にしてくれました。佐藤さん姉妹が行ったように、ローテーションやノートでの情報共有、そしてエンディングノートの活用など、小さな工夫が積み重なることで「誰か一人が倒れるほど無理をしなくてすむ」体制が整えられます。

介護が本格化すると、どうしても仕事を辞めたり休職せざるを得ない状況に陥りがちです。
しかし、無理なく働く道を模索したいのであれば、行政のサービスや介護保険制度を積極的に利用するのも重要な選択肢となります。

終活は「今からでも遅くない」

佐藤さんのお母さまは今回の入院をきっかけに、姉妹と話し合いながら自分の意思を整理し、エンディングノートに書き込んでいきました。「終活なんて早い」と思うかもしれませんが、いつ何が起きても大丈夫なように準備しておくことが、結果として家族みんなを救うことにつながります。

入院や介護のタイミングは、あらためて家族のコミュニケーションを深めるチャンスでもあります。
負担をどう分担するか、費用をどう工面するか、そして母や父の本当の願いはどんなものか——。
そうした話題にきちんと向き合い、家族がそれぞれの役割を果たしながら自分の働き方を諦めない工夫をすることこそ、これからの時代の「家族で支えあう終活」と言えるでしょう。

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